2007年12月16日 の出来事 |
チャレンジャーとニセ検査官 -プラハ→クラクフ-
クラクフの宿Kadetus Hostelに着き、ベッドに腰を下ろすと、疲れの波がドドッと押し寄せてきた。
この宿が快適で居心地が良さそうだというのは結構な救いではあったが、それにしても今日はなんとも災難な一日だった・・・。

プラハの宿をチェックアウトして、郊外のバスターミナルへ向かったのは早朝7時だった。目的地のクラクフは、あのアウシュビッツに程近いことで知られるポーランドの古都だ。
昨日の夜、散歩から帰ってきた後、ノートパソコンを開きながら再び夜のプラハを歩き回り、無線LANがキャッチできる公園のベンチで寒さに凍えながらネットをやって調べたところ、このバスターミナルからクラクフ行きのバスが出ているということがわかり、今朝ここに来たというわけ。
(ちなみにYahoo!カテゴリは復活してました。オススメサイトからは消されたままだけど、まあとりあえずよかったよかった)
ネットで調べた出発時間の30分前にバスはやってきた。
バスの車体には「クラクフ」とは表記されていなかったが、昨日ネットで見た覚えのある地名が書いてあった。途中クラクフを経由していくのだろう。
これに違いないと思い、バスに駆け寄って乗務員にチケットを売ってくれと頼む。
が、乗務員は「ノー」と冷たく突き放すだけで、全く相手にしてくれなかった・・・。
あれは忘れもしない中学二年生の頃、いつも遊んでいた友人と二人で、ドキドキしながら近くのレンタルビデオ屋「チャレンジャー」の門をくぐった。
目的はエロビデオを借りるため。初めての挑戦だった。
中に入ると、当時、一世を風靡していた飯島愛のビデオが目に入った。
とりあえず棚の上からそれを手に取ると、僕は18歳未満だということがばれないよう、銭形平次のテーマ曲を口笛で吹きながら、ゆったりとした足取りでレジへと向かった。
レジの上にゆっくりとビデオを置く。
レジには50代半ばと思われる眼鏡をかけた無愛想なオバちゃんがいた。オバちゃんの視線が痛いほど全身に突き刺さる。
「オレたちもチャレンジャーなんだ!」と心の中で何度もつぶやき、くじけそうになりながらも、鋭利な刃物のようなその視線に堪える・・・。
実際は数秒だったかもしれないが、僕にとっては1時間にも2時間にも感じられるほどの静寂が、レジのオバちゃんと僕の前に静かに流れ、そしてオバちゃんがゆっくりと口を開いた。
「ダーメ!」
その瞬間、顔から火が出そうなぐらいの恥ずかしさに全身が包み込まれた。
「あ・・・、は、はい」と言いながら、飯島愛のビデオを急いで棚へ戻し、そして「エロビデオ借りるためだけに来たんじゃないですよ」という無駄なアピールをするため、『紅の豚』を借りて、そのビデオ屋を後にした・・・。
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乗務員の「ノー」という冷たい言葉を聞いて、そんな辛い思い出が脳裏に甦る。乗務員の顔が、一瞬あのオバちゃんの顔のように見えてしまった。
まあそんなことはどうでもいいんだが、とりあえず困った。。
周りの人に聞いても、誰一人として英語が通じないし、なんとも対応のしようがない。プーチン似のバスの運転手も、全くこちらのほうすら向いてくれない。
どうしよう・・・。
何にも策が思い浮かばないうちに、乗客が一杯になったバスはエンジンをかけて、灰色の煙をあげながらブーンと出発してしまった。
寒空の下、呆然と立ち尽くす。
頭の中には「ダーメ!」というオバちゃんの声がリフレインしていた・・・。

気を取り直して、駅のほうへと向かう。
ヨーロッパを旅したことのある何人かの人から「毒ガス列車」の話を聞いたことがあった。
その列車が走る路線には、強盗団がよく出没するそうで、彼らは車輌内に睡眠ガスを充満させ、乗客全員を眠らせた間に金品を盗み取るという。
本当の毒ガスを使っているわけではないので、死に至るようなことは無いのだが、それにしてもかなり豪快かつ悪質な手口だ。数多くの旅行者がこれに引っかかり(というか防ぎようがない)、大きな被害にあっているという。
じつは、プラハからクラクフへ向かう列車が、まさにその「毒ガス列車」なのであった。クラクフがアウシュビッツに近いだけに、よりリアルに感じてしまう・・・。
そのことを知っていたため、列車に乗ることは避けたかったのだが(値段も高いし)、バスに乗れなかった以上、列車を選ぶしかない。
駅に着くと、ちょうどクラクフ行きの列車がでる直前だった。
「えいやー」っと腹をくくって列車に乗り込んだ。

車窓に広がるのは、ほぼ100%雪景色だった。
毒ガスの件もあるし雪だらけだしで、まあ気分がハズむわけも無く、寝るのもちょっとコワイので、気を紛らわすためDSでゲームに興じたりしながら、ひたすら時間をつぶしたのでした・・・。
全く国境を越えたという実感のないまま、夕方には列車はクラクフ駅に到着した。まあとりあえず毒ガスの被害にあわずに無事で何より。
しかし、外に出ると、予想通り暗く、そして寒かった・・・。
急いでトラムに乗り込み、目的の宿を目指す。

トラムっていうのは日本で言う「チンチン電車」にあたるもので、ヨーロッパの特に古い街では、路線が街中に張り巡らされていて、メジャーな交通手段となっている。地上をゆったり走るので街の景色も眺められるし、なかなか悪くない。
寒さと暗さで静まり返ったように見えるクラクフの街並みを眺めながら、ガタガタと音を立てながら走るトラムにしばらく揺られる。
と、乗り始めて10分ぐらいがたった頃、黒い上下の服を着込んだ二人組の男が乗り込んできて、乗客一人一人になにやら声をかけ始めた。
マズい・・・。
彼らの様子を見て、体が一瞬固まった。
日本では、公共交通機関に乗る際もしくは降りる際に、(ちょっと変な言い方だが)必ずお金を払わねばいけない仕組みになっている。
地下鉄だったらお金を払って切符や定期を買わないと改札がくぐれないし、バスであれば乗るときか降りるときに運転手の目の前でお金を払う必要がある。
だが、ヨーロッパの交通機関は、日本の方式とは異なり、切符を買わずとも、お金を払わずとも、普通に乗れてしまうのだ。
ただ、たまに検査官がチェックにやってきて、切符を持ってないことがわかると多額の罰金を徴収するという仕組みになっている。
まあ、合理的かつ、すげー適当なシステムだ。
切符を買う場所がわかりにくいことも多く、この仕組みを知らずに乗ってしまって、後から罰金を払わされてしまったという旅行者も多いらしい。

当然、うちらはその仕組みを知っていた。
が、切符の買い方がよくわからなかったし(言い訳じゃないよ!)、もちろん節約もしたかったしで(これは本音だけど)、ちょっと悪い心が働いてしまい切符を買うのを怠ってしまっていた。
まあ数分間乗ってるだけだしバレやしないだろう、とタカをくくって・・・。
しかし、ヤツらはやってきた!
乗客に声をかける黒服たちは、明らかに切符をチェックしている様子だった。
なすスベもなく、彼らに声をかけられる我々・・・。
善良そうな市民を装ってなんとかごまかそうと振る舞うも、最終的には切符が無いことがバレてしまい、とりあえず外へ出るように言われ、しぶしぶとトラムを降りた。
普段からなるべく物事に動揺しないよう心がけているのだが、この時ばかりは、
「罰金1人100ズロチ(約4,500円)」
という黒服の声に青くなってしまい、言われるがままにパスポートを渡してしまった。
「切符の買い方を知らなかった」と弁解しても、「これは決まりだから」と言って許してくれない黒服たち。
インドで10円、20円をケチって、汗をタラタラ流していた思い出が走馬灯のように頭を駆け巡る。それらの努力がこの罰金で吹っ飛んでしまうのか・・・。
・・・と、寒さと動揺で頭がおかしくなったのか、この冷たい表情を浮かべた黒服のポーランド人たちが、何となくインド人みたいに思えてきた。
インド人、インド人・・・、ん?
もしかしたら、こいつらニセ検査官でオレたちをだましてるのかも!?
根拠はないけど、そんな風に思えてきた。インド人だったらやりかねんからね。
「とりあえずポリスに行ってきちんと話しよう」ということを切り出す。
すると、「ポリスのオフィスまでは遠いから、オレたちが呼び出してやる」と、ケイタイでなにやら電話し始めた黒服たち。
電話でポリスが呼び出せんのか!? ますます、インド人臭くなってきたぞ!
強気に「ポリスに直接行こう!」と再び言うと、ちょっと顔を引きつらせながら「ノー」と答える黒服たち。
『紅の豚』を借りてた頃のオレとは違うんだ~!
男たちの顔をのぞきこみ「あんたたち、本物の検査官か?」と詰め寄ると、「本物だ!」と言ってIDカードをかざしてきた。
あーん!?
そんなの誰でも作れるよ。インド人と同じ手口じゃない。どーせ、ガバメントなんちゃらとか書いてあるんでしょ?
さらにさらに黒服たちにしつこく詰め寄る。
するとヤツらは「1人500ズロチで許してやろう。だから早く払いなさい」と言ってきた。
お~、いきなりの半額宣言!インド人の商法だね、こりゃ。
つーか、ニセモノということがこの時点で100%確定。
こいつらを無視して逃げるのは簡単だが、その前にパスポートを返してもわんといかん。どうしよう・・・。
寒さが体に染み渡り、少し足先が痺れてきた。朦朧とし始めた意識の中で色々と考えをめぐらす。
あ~でもない、こ~でもない、こ~したらあ~だし、あ~したらこ~だし・・・。
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これだ!!
「ハイ、チーズ!!」
ポケットからデジカメを取り出し、思いっきりフラッシュをたいて、黒服の顔を激写!
あわてて横向いたみたいだけど、バッチリ写ってますよ~♪

「いやあ、いい表情で撮れたよ~」
と声をかけると、黒服は裏返りそうな声で「・・・次からはきちんと切符を買うように」とうつむきかげんで言い放って、すんなり僕にパスポートを返してくれた。
ふう、なんとか切り抜けることができた・・・。
それまで気を張ってて気付かなかったが、黒服たちから開放されたときには、僕らの両肩に、まるで赤ん坊の子猫でも乗ってるかのように、数センチの雪が積もっていた。
勝利の喜びを味わう余裕もないほど疲れきっていた僕らは、寂しい冬のクラクフの街路をトボトボと歩き、どうにか宿までたどりついたのでした・・・。

comments
偉い!よくやった!!凄い勇気だよ。どこにも悪い人間はいるもんだね。
>ひでじぃさん
旅先にはいい人もたくさんいるんですけど、どうしても悪い人のほうが目立ってしまうので、そういう人に出会うと、その国の印象が悪くなってしまいます・・・。
というわけで、日本の印象が悪くならないよう、僕もまともに生きて行きたいと思います。ワルいことはたくさんやりたいですけど。