2008年2月 9日 の出来事 |
ラスタ村へ(1) -シャシャマネ-
コンコンコン・・・。
誰かがドアをノックする音で目が覚めた。
フラフラしながら音の鳴るほうに向かって歩いていきドアを開けてみると、そこには宿の従業員が突っ立っていた。
そして手のひらを差し出しながら、ぶっきらぼうにこう言った。
「今日の宿代を払ってくれ」
どうやらこの宿は、毎日宿代回収制のようだ。朝一で回収しないと資金繰りが苦しいのかもしれない。

眠い目をこすりながら財布から25ブルを取り出して宿代を支払い、時計の針に目をやる。
10時。
エチオピア時間の10時だと午前4時になるが、時計の針をエチオピア時間に合わせた記憶も無いし、外の明るさからしても普通に午前10時のようだ。
腹が減った。
朝食に何か甘いものが食べたいなあと思い、エジプトで買ったチョコレートを取ってくれと嫁にたのむ。
と、しばらくしてから「ギャッ!」という嫁の声が部屋中に響き渡った。
ビックリして振り返ると、泣きそうな顔をしながら嫁がこうつぶやいた。
「ネズミに食われた・・・」

大切な食糧を食われてしまいちょっと腹が立ったが、依然として腹は減っているので、少し早めの昼飯を食べることにした。ブランチってやつ。
また宿併設のレストランで食ったのだが、相変わらずなかなかの美味。まあ、あくまで「なかなか」だけど。
さて、今日はラスタ村へ向かう。
毎週土曜日に教会でミサが行われてるらしいのだが、今日は丁度いいことに土曜日なのだ。
ミサは夜に開かれるかもしれないが、ラスタ村の状況もよくわからないし、いきなり夜に行くのも危険そうなので、日の出ている時間帯に早めに向かうことにした。
旅先の情報ノートで、これまでラスタ村についての記載をいくつか目にしたことがあるのだが、そのほとんどが「あそこは危ない」という感じのものだった。
身ぐるみはがされて、ボコボコにされてる旅行者が結構いるらしい。
なんでも、ラスタ村にはヨーロッパの凶悪犯罪者がかくまわれてるとかいないとか。
まあしかし、ラスタの人たちは基本的にピースフルなはずなので大丈夫だろうとタカをくくり、現金50ブル(約600円)と、ボロいほうのデジカメだけを持って、明るい時間に出かけることにしたのだった。
ロバ車に乗って行こうかと思ったが、念のためバイクタクシーに乗っていくことにした。屋根つき3輪バイクみたいなトゥクトゥク的なやつ。
少なくともロバ車よりは安全だろう。

「Made in India」と書かれたバイタクは、いい感じにエチオピアの大地を駆け抜ける。
相変わらずエチオピアの道はホコリっぽいが、風を受けながら走るのは、やはりなかなか気分がいいものだ。
ドライバーもイイ奴そうで、運転の慎重さからしても、かなり真面目で信頼のおけそうな男だった。
10分ほどすると、快適に飛ばすバイタクの前面に、土産物屋みたいな店がポツリと現れ始めた。店の色使いやペイント模様からして、どうやらこの辺りがラスタ村のようだ。
そろそろ到着かなと思って周囲を見回していたら、その土産物屋の前でタムロしていた若者と一瞬目が合った。
若者というか、ニューヨークのハーレムとかにいるようなギャングの悪ガキみたいな奴らだった。
すると目が合った瞬間、そのうちの一人が身を起こし、僕らのほうに向かってダッシュで駆け寄ってきた。
「えっ、なに?」
急な出来事に呆然とする僕らをよそに、その悪ガキは走行中のバイタクに向かって猛烈な勢いで走ってくる!
さすがは陸上王国エチオピア。
悪ガキは、ついにはバイタクに追いつき、横脇の棒をつかんでバイタクに飛び移ってきたのだった。
そして、さらに呆然とし続ける僕らに向かって、流暢な英語でこう話しかけてきた。
「教会に行きたいんだろ。こっちだぜ。ついてこいよ。」
その悪ガキは、今まで見てきたエチオピア人たちとは、何かが決定的に違っていた。
彼の顔には、生きることへの必死さや泥臭さが感じられない反面、物事に対する余裕さと、そして深い残忍さが潜んでいるように思えた。
その充血した眼球にはライオンのような獰猛さが宿り、ニヤニヤした口元には獲物を見つけたときのハイエナのような唾液がベトリと垂れている。
だいたいエチオピアで、こんなに流暢に英語を話す人に会ったのは初めてだし、こんなにキレイなスニーカーをはいているガキに会ったのも初めてだった。
ポケットの端から木製の何かが見えているが、ナイフの柄だろうか・・・。
しばらく必死に「ノー、ノー」と言いながら抵抗を続けていた僕らの意思とは反対に、バイタクは悪ガキの指差す方向に進み始めた。
ドライバーの顔を見ると、先ほど口笛を吹きながらハンドルを握っていたときとは一変して、表情は強張り、目には恐怖をにじませているように思えた。
地元の人でもこうなのだから、この悪ガキの言うことに従うしかないか・・・。
バイタクは大通りから横に入ったところにある、大きな建物の入口の前で、ゆっくりとエンジンを止めたのだった。
(・・・次回へ続く)
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