2008年3月31日 の出来事 |
ソウェトを見学 -ヨハネスブルグ-
「キャー!」という叫び声で目が覚めた。
ここは世界最悪の犯罪都市ヨハネスブルグ。強盗でも入ったのかと思い、あわててベッドから飛び起き、叫び声が聞こえてきたほうに目を向ける。
すると、そこには部屋の隅っこで口をポカンと開けながら呆然と立ち尽くす嫁の姿があった。
嫁の視線の先には、背の低いテーブルがあり、その上にはいくつかのお菓子が置かれていた。
「蟻に食われた・・・」
テーブルの上のお菓子は、見事なまでに大量の蟻たちの餌食となっており、不自然に黒い姿でウニョウニョと波打っていた・・・。

ヨハネスブルグの郊外に軒を構えるこの宿は、主にバックパッカー向けの比較的リーズナブルな宿だ。
といっても、外観からは宿だということが全く分からない。看板もなければ表札も出ていないため、知らない人が見たら、何の変哲もない普通の民家のように思えることだろう。
「これじゃ客が来ないんじゃないの?」と思ってしまいそうだが、ほぼ100%の客が宿のピックアップ・サービスを利用しているため、分かりやすくする必要が全くないのだと思う。
バックパック背負って、フラフラと探し歩いてここまでやってくる人なんて皆無だろうし。
むしろ、分かりやすいと泥棒や強盗に狙われやすくなってしまうので、あえて分かりにくくしている、ということなんだと思う。
宿の外壁には物々しいバリケードが張りめぐらされているが、その外壁の内側には、なかなか暮らしやすそうな空間が広がっている。
犬がノンビリと寝そべる広い庭には、プールやキャンプサイトがあり、バーベキューなども手軽に楽しめそうだ。
室内にはバーカウンターやビリヤード台、パソコンはもちろん、ホームシアター的なスペースや広いキッチンも有り、さながらお金持ちの別荘のよう。
まあしかしこの宿、泥棒や強盗の侵入は防げても、蟻の侵入は防げないようで、僕らの貴重な引きこもり用食料は、その真っ黒なちっこい奴らに無残にも食い荒らされてしまったのでありました・・・。

気を取り直して、今日はこの宿がやっているソウェト・ツアーに参加することにした。
ソウェト(SOWETO)とは、「South-Western Townships」の略。
推定人口は300万とも400万とも言われる、南アフリカ最大の「黒人居住区」で、アパルトヘイトによって迫害されたアフリカ系住民の象徴の地とも言われる。
ちょっと怖いけど、ここを見なきゃヨハネスブルグに来た意味が無いとか言われているほどの場所なので、思い切って参加することにした。
まあ宿のやってるツアーだし、大丈夫でしょ。

ツアーは所用4時間。客は僕ら2人だけだった。
ドライバー兼ガイドが色々と説明しながら、宿の車でソウェト内を案内してくれた。
ネルソン・マンデラ元大統領が住んでいた家、1976年に起きたソウェト蜂起で警官隊に殺害された子供ヘクター・ピーターソンの記念館、かつて反アパルトヘイト運動の拠点となっていた美しい教会、ソウェトの町や労働者の様子がペイントされた火力発電所跡地、マッチ箱のようなバラックが無数に立ち並ぶ川沿いのスラム・・・。
いくつかの印象深い場所を、その歴史的な背景と現状、問題点などを自分なりの観点で説明しながら、ドライバーは淡々と案内してくれた。
詳細を書き始めると写真ばっかりになりそうなので、ツアーの様子については「旅の写真」のページをご覧ください。

南アフリカ共和国は、世界でも類を見ない歴史的な民主化が成し遂げられた国だと言われている。
国土を荒廃させるような内戦や革命を伴わずに、平和裡のうちに進められた奇跡的な和解を経て、アパルトヘイトという忌むべき制度を取り払い、20世紀末に、340年以上にわたって続いてきた少数白人支配体制を終焉させた。
それから15年ほどの月日が経った今も、その歴史的な出来事は、南アフリカで暮らす人々にとって誇りであり、その偉業を中心となって成し遂げた、ネルソン・マンデラは彼らにとって絶対的な英雄である。
今回ソウェトを見学してみて色んな発見があったが、とりわけ印象的だったのは、そこで暮らす人々の表情に暗さがほとんど感じられなかったということだった。
失業率の高さ、教育水準格差と貧困、HIV感染率の高さ、治安の悪さ、衛生状況の悪さ、電気・水道などのライフライン不備・・・、数え上げたらキリが無いほどの問題点が複雑に横たわっているソウェトなのに、人々の顔には沈んだところが無く、希望のようなものさえ見え隠れしていた。
黒人特有の陽気さもあるのかもしれないが、単純にそれだけでもないような気もした。
15年前の歴史的な奇跡を生み出した震源地であり、マンデラがその活動を行っていた地でもあるソウェト。
その15年前の出来事がいよいよ実を結んでいき、これからどんどん国が良くなっていくはずだという期待感、そして希望を持って生活してればまたそのうち奇跡が起こせるはずだという漠然とした自信、そういったものがここで暮らす人々の心の中に、もしかしたらあるのかもしれないな、と少し思ったりもした。

ツアーを終えて宿へと戻り、広いキッチンで適当に夕食の準備。
すると、明らかにイスラエル人と思われる、ヒッピー然とした宿泊客がフラフラと僕らのほうに近寄ってきて、こう語りかけてきた。
「何でもいいから食べ物をくれないか?」
彼が言うには、どこかでカードを失くしてしまったらしく、手持ちの金が全然無くて、今日一日食べ物を全く口にしていないということだった。
だけど僕らもギリギリの食料しか持ち合わせてなかったし、2人分の料理しか作ってなかったため、
「残念だけどムリだ。蟻に食われたチョコだったらあるけどね」
と言ったら、「じゃあそのチョコちょうだい!」とそのイスラエル人は目を大きく開きながら嬉しそうに握手を求めてきたのだった。
冗談で言ったつもりだったんだけど。。
蟻に食われまくってヘンテコな形になったそのチョコレートを渡すと、彼はなぜか金が無いくせに缶ビールをグビグビと飲みながら、そのチョコレートを胃の中へと美味しそうに流し込んでいったのだった。
こいつ、何者だよ・・・。

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