2008年5月26日 の出来事 |
新しい世界(2) -ウユニ塩湖ツアー-
ラグーナ・ベルデの次は、シュールレアリズムの巨匠ダリにゆかりのある「ダリの砂漠」と呼ばれるスポットへと向かった。
あのMoMaに展示されてる有名な「記憶の固執(柔らかい時計)」という絵のモチーフになった場所らしく、そこにはどこかで見たことあるような砂漠と奇岩の乾いた光景が広がっていた。
うーん、シュールでリアルだ。
でも普通の人だったらこんな寂しい場所で絵を描こうなんて絶対思わないだろうけどね・・・。

そんな寂しい自然風景の中を車はひたすら進み続けた。
さすがのランクルでも、この火星のようにゴツゴツした地面では揺れが座席までだいぶ伝わってくるようで、油断していると右へ左へと体が振れて車内の壁に頭がぶつかりそうになってしまう。
あのエチオピアで乗った柱の折れたバスほどではないけど、でもたまにお尻が浮いたりしてなかなか大変だ。しかもこの高度なので、なんだか胃のあたりが気持ちが悪くなってしまいそうだ。
しかし・・・
助手席に座ってる料理担当のインディヘナの娘は、「こんなの全然余裕よ」と言わんばかりに、体を軽くゆらゆらさせながら、なんと編み物をしていた!
派手な色した毛糸を指先で巧みに操りながら、うまい具合にひょいひょいと軽快に帽子のようなものを編み上げていく。まるで体全体がサスペンションであるかのように、車の揺れを体で柔らかく吸収しながら彼女はクールに編み物に興じていたのだった。
うーん、すごい・・・。
ガタガタ音をたてる車の中で、ボリビア人のたくましさと器用さを垣間見ることができたような気がした。

しばらく走り続けると、またまた小屋のようなものが目の前に現れた。
今度の小屋は、ボリビア国旗もヒラヒラさせておらず、国境の小屋よりもさらに公衆便所的な雰囲気を漂わせていた。
小屋の裏手から煙のようなものがモワモワあがってるけど何だろあれ?と思って見ていたら、車が近づくにつれその正体がわかってきた。
そこはなんと温泉だった。
すでに先客がいて、何人かのツアー客がゆったりたっぷりのんびりと、その天然の露天風呂につかっているようだった。もしかすると小屋は脱衣所なのかもしれない。
ツアーの道中で温泉に立ち寄るということは事前に聞いていたのだが、こんな何にも無い荒野の中に突如それが現れたので、その不自然さにちょっとビックリしてしまった。
「15分後に出発だ」
ドライバーは温泉のわきに車を停めると、少しムスッとした口調でそう言い放った。さっきダリの砂漠でムダに歩き回って時間を費やしたため、かなり予定が押しているようで、ドライバーもカリカリしているみたいだ。
急いで荷物の中から水着を取り出し、小屋の近くでそれに着替えた。
予想通り、肌を露出するとものすごい寒さに襲われて、思わず声を上げて叫びそうになってしまった。全身鳥肌状態で、歯はガクガク震えていた。
しかし温泉の中へゆっくり体を沈めると、その鳥肌や震えは、どこかへキレイさっぱり吹き飛んでしまった。
そこはちょっとした天国だった。
ちょうどいい温度のお湯が僕の体を包みこみ、暖かい波のようなものが体の奥までじわわわわ~と広がっていった。
まるでお湯に入れた氷のように、僕の体は温泉の中でとろけてしまいそうだった。
荒野の先に広がる山並みとその背後の青い空を眺めながら、「いやあ、いい湯だなあ」としみじみ悦に入った数分間だった。

短い温泉タイムを満喫した後、近くの間欠泉を訪れた。
温泉があるということは当然この辺りは火山地帯なわけだが、その証拠を見せつけるかのように、間欠泉はブクブクと泡を立て、グツグツと湯気をあげながら、その存在感を見せつけていた。
けっこうな迫力だけど、しかしすげー硫黄くさいわ、ここ・・・。
硫黄の余韻のようなものが車内に何となく漂っている気もしたが、車はお構いなしに淡々と進み、1時間ほどでコロラダ湖畔の宿へと到着した。
これで、ツアー1日目の目的地に無事到着したわけだ。とりあえずよかった。
その宿には当然のように暖房設備などもなく、電気も水も通っていなかった。
まあこんな地の果てのような所に住んでる人なんているわけないから、当然といえば当然だ。毎日開いているパソコンも、さすがにここではオアズケだ。
時計はすでに午後2時を指していたが、ここでようやく昼食となった。廊下に置かれた横長のテーブルに、輪切りのキュウリやトマトなどのシンプルな食材がいくつか並ぶ。
いずれもサン・ペドロ・デ・アタカマからツアーで持参してきたものだ。こんなところで食料を調達することなんてできないから、調理器具一式含めて車の荷台と屋根の上に積み込んできたのだ。
宿の中も外と同様(外よりは全然マシだが)ものすごく寒かったが、昼食とともにテーブルの上に置かれたお湯で淹れた紅茶を口に含むと、驚くほどの温かさが冷え切った体に染み渡っていった。
お湯は濁っていたが、最高に美味しい紅茶だった。
シチュエーションによって、美味しさというのは百倍にも千倍にもアップするものだということを、ここで改めて思い知った。
が、残念なことに、ここでは水が貴重なため1人コップ2杯分ぐらいのお湯しかもらえず。
あー、もっとお湯がほしい・・・。

宿の部屋は、7つのベッドが並ぶドミトリーを、メンバー5人で占有するような形となった。
アスカさんは「フラミンゴを見に行く」と言ってコロラダ湖畔を散策しに外へ出て行ったが、荷物を置いてベッドの上に座り込んだ他のメンバーの顔を見回すと、皆一様にゲッソリしているように見えた。
まあ一日で標高を2千メートルも上げてきたのだから、体にこたえるのも当然だ。
先生も結構キツそうにしていたが、それ以上にマサの様子はかなりヤバそうだった。
明らかに高山病にかかってしまっており、頭痛や吐き気などの典型的な高山病の症状に襲われているようだった。

「甘く見てたよ。昨日ビール飲まなきゃよかった・・・」
そうボヤきながら苦笑いを浮かべるマサのその顔には覇気が無く、まるでこの世の終わりかのような沈痛な表情を浮かべていた。
まあさっきも気分悪いと言いながら温泉に入ってたし、自業自得って面はあるけど、でもやっぱりちょっと可哀想だ・・・。
なんとかしてあげたかったけど、この標高4,200メートルという状況はどうあがいても変えることはできなかったし、高山病の症状を抑えるようなちゃんとした薬も持ち合わせていなかった。
できることといえば、「水をたくさん飲みなよ」とか誰でも知ってるようなアドバイスをかけてあげることぐらいだった。
まあしかし、この時点では少なくともそういう風に人のことを気遣う余裕は見せていた僕だったわけで、まさかこの後、自分が同じような状況に陥ってしまうなどとは思ってもみなかったのだった・・・。

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