2008年5月27日 の出来事 |
高山病と塩のホテル -ウユニ塩湖ツアー-
「んんあああうう・・・」
声にならないような声が、真っ暗な部屋の中に響き渡る。
右や左から数分おきに聞こえてくるその声は、この部屋にいるメンバーの何人かが高山病にやられてしまっているということを如実に物語っていた。
部屋の中は暗くて何も見えなかったが、その震えるような声は視覚以上のリアルさで、彼らの苦しみ悶える姿をありありと僕にイメージさせたのだった。
そして、いつしか僕もその声の主のひとりとなっていた。
息が苦しい、胸が締めつけられる、頭が痛い、吐き気がする・・・。
さっきまで修学旅行みたいにワイワイ皆で会話を楽しんでいたのがウソだったかのように、就寝とともに部屋の中の状況は、文字通り一気に暗転してしまったのだった。

もしかすると皆におやすみを告げた後、ベッドの上で何時間か眠っていたのかもしれない。が、体を動かすのがきつくてベッドのすぐそばに置いてある時計を見る気すらおきず、その真相はわからなかった。
いずれにしても、こんなに体が苦しく感じるのは生まれて初めてだったし、この拷問のような状況に耐えるのにもう必死だった。
症状を和らげるため、頻繁に水を飲みキャンディーを口に含んだりしたが、そんなのは焼け石に水で、状況は劇的には変わらず、とにかくとにかく苦しい状態が続いた。苦しすぎて眠ることなんて不可能だった。
さらに追い討ちをかけてきたのが、激しい寒さだった。
ダウンジャケットを着込んで可能な限りの厚着をし、その上に数枚の毛布をかけて寝ていたにもかかわらず、そんなことは関係ないとばかりに、寒さは僕の体の奥のほうまでジワジワと伝わってきたのだった。
しかも毛布の重さに胸が圧迫されて、酸素不足の僕の呼吸器官は泣きそうな悲鳴をあげていた。
「もうダメだ・・・」
こんなコンディションでツアーを続けるのなんてもう絶対無理だと思ったし、この体調であのガタガタ道を連れ回されたら、もう死んでもおかしくないと思った。
どうなるんだろう、この先・・・。
そんな極限状態を3時間ほどベッドの上でなんとかやりすごしていた。が、新たな脅威がまた現れた。
それは尿意だった。
水を飲みすぎたせいで、もう小便がしたくてたまらない状況になっていたのだ。
動くのがしんどくてそのまま漏らしてしまおうかとも一瞬思ったが、さすがに夢精はよくてもオモラシは無いだろと思い、渾身の力をふりしぼって体を起こし、そして地面をはいながら、部屋から10メートルほど離れた所にあるトイレへと向かった。
ハアハアと息を切らせながら5分ほどかけてようやく到着したその真っ暗な「非水洗」トイレ。
その中には、当然のように鼻を捻じ曲げてしまいそうな悪臭が満ちており、当然のように僕の気持ちを圧倒的に滅入らせてしまったのだった。
あああ・・・。

気がつくと、朝になっていた。
トイレから戻ってきた後の記憶が無いということは、あの後、苦しみを堪えてなんとか眠ることができたのかもしれない。
もしくはあまりの苦しさに耐え切れず、気を失うようにして眠ってしまっていたのかもしれない。
まあそれはどちらでも構わないのだが、驚くべきは僕の体調だった。
なんと・・・、見事に回復していたのだ!
あの夜中の拷問のような時間が夢だったのかと思えるほど、頭はすっきりしており、締めつけられるような息苦しさからも解放されていた。風邪にもかかってなさそうだ。
よかった・・・。
とりあえず心からホッとした。
他のメンバーも、昨晩はアスカさん以外は皆高山病にかかっていたようで、僕と同じように暗闇の中で頭痛や息苦しさと闘っていたそうだ。
でもまあ目覚めの顔を眺めてみると、皆元気そうだし、無事に今日はツアーを続けられそうだ。
それにしてもボリビア、おそるべしだな・・・。
外へ出ると、気持ちの良い朝日がコロラダ湖と湖畔で戯れる羊たちを美しく照らしだしていた。
その麗しい朝の風景を眺めながら、「高山病も治るとすっきり気持ちいいもんだね」と隣の嫁にそう語りかけたのだった。

ランクルは昨日と同じく、荒野の中の道っぽい部分を進んでいった。
途中、砂漠のど真ん中で車が故障したけど、ドライバーの手慣れた作業により見事に修復。
何事もなかったかのようにランクルは再び走り始め、ストーンツリーと呼ばれる木のような形をした奇岩や、ラグーナなんちゃらという湖シリーズ、そしてリャマやキツネやフラミンゴといった動物たちの横を通っていったりしながら、なかなか見ごたえのある景色を僕らに披露しつつ、荒野の中をひたすら突き進んでいったのだった。


まあそんな感じで、途中、オジャグエ火山という活火山を眺めながら昼飯食ったり、突如として現れた村で行われていたヘタクソなサッカーの試合を観戦したり(高地で走れるだけでもすごいけど)、これまた突如として現れた廃線路のレールの上に寝そべってワイワイはしゃいだりしながら、午後4時半ごろ、無事2日目の目的地の宿へと僕らは到着した。
ここに到着する1時間ぐらい前から地面が白っぽくなり始めていたので、「いよいよ塩湖が近づいてきたか」と思っていたけど、宿に到着すると、もう目の前の数百メートル先には純白な塩の世界が広がっているように見えた。
やっと来たぞ、ウユニ塩湖!!
その憧れの光景を前にして、興奮のボルテージが爆発してしまいそうになったが、まあそれは明日の楽しみにとっておくとして、とりあえず心を落ち着かせて、宿の中へと入っていった。
2泊目は「塩のホテル」に泊まれると聞いていたが、中に入ってみると、本当にほとんど全てのものが塩でできていた。ウユニ塩湖で採れた塩で作られているようだ。
壁も床もテーブルも椅子もベッドでさえも、真っ白な塩で作られており、舌でペロリとなめると確かにしょっぱかった。
う~ん、よく作ったなあこんなもの。ナメクジは絶対住めないね。

塩でできているせいか、宿の中は昨日よりも全然寒くなく、隙間風も入ってこないので、なかなか快適で過ごしやすかった。さすがは塩のホテル。
シャワー浴びたら、お湯がヌルすぎて死にそうになったけどね。。
宿の中に入ってきたオヒネリ目当ての子供楽団による大道芸を眺めながらちょっと豪華な夕飯を食べ、部屋の中でまた修学旅行的な会話を皆で楽しんだ後、なかなか寝心地の良い塩のベッドの上で横になり今日は就寝となった。
さて、いよいよ明日はウユニ塩湖だ!

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